【2024年6月15日 スペイン 3-0 クロアチア ベルリン・オリンピアシュタディオン】
16歳の新星、ラミン・ヤマル
まさしく圧巻のパフォーマンスだった。今大会におけるスペインに対する下馬評は決して優勝候補筆頭ではなかったが、この試合がそれを一気に変えてみせたと言っても過言ではないほどだ。
16歳と338日。
大会史上最年少の選手としてEURO2024のピッチに立ったスペイン代表の右サイドアタッカー、ラミン・ヤマル。バルセロナに所属し、昨年からリーガで数々の最年少記録を塗り替え、早くもチームに欠かすことのない選手となっている彼は、EUROの初戦でいきなりスタメン起用された。
この日、彼の対面にはスピードに対しても負けないハードな対人守備でカタールW杯におけるクロアチア躍進を牽引したDF、ヨシュコ・グヴァルディオルがいた。所属しているマンチェスター・シティでセンターバックではなく左サイドバックとして起用されていることを代表でも取り入れた形だが、個で仕掛ける選手にとってグヴァルディオルが対面にいることは場所に関係なく厄介なことだ。
それでも「監督は僕とニコ(ウィリアムズ)が1対1のシチュエーションに強いと考えてくれている」と語る16歳の新星は、初のEUROに自信満々で試合に臨んでいた。相手が誰であろうが関係なく、彼は自分のプレーを彼は前半から臆することなくドリブルで仕掛け、スペインに勢いをもたらした。
相手の守備を切り裂くだけでなく、ゴールに繋がるプレーで深い爪痕を残した。チームの2点目が生まれた場面はヤマルの仕掛けから始まり、さらに3点目ではアシストを記録した。ドミニク・リヴァコビッチのビッグセーブさえ無ければ、得点の最年少記録も更新していた。
圧巻のプレーは続いた。ライン際でボールを持ったヤマルはスピードをゼロにしてグヴァルディオルと正対すると、一気に縦に仕掛けて振り切ってみせた。大部分を屋根の影に覆われながらも部分的に直射日光が入っていたベルリンのピッチで、16歳の新星は選ばれたかのように限られた光を浴びて輝いていた。
新生スペインの魅力
この試合で見せたスペインの戦い方は、EUROとW杯を制したティキ・タカとは異なるものだった。細かいパス交換でスペースを作り出し、そこを一刺しする高い芸術性は、あのメンバーでなければ再現できない。もちろんボールを動かす巧さは健在だが、今のチームはあのティキ・タカを追いかけてはいない。
4-3-3の中盤を形成したペドリ、ロドリ、ファビアン・ルイスの3人はフィジカルコンタクトにも優れ、ボールを細かく動かすことよりも中央で相手のプレスを受けつつ収めるプレーによってチームに安定をもたらした。そこからシンプルにサイドを使い、ウインガーが個で仕掛ける。
両SBのダニ・カルバハルとマルク・ククレジャの堅実なサポートも重要だった。最終ラインからのビルドアップにおいて、カルバハルは出口を見つけられない場合の逃げ道として安全な位置に動き、チームは彼を使って危険を回避。ククレジャは4度の空中戦全てで勝利し、デュエルでも7度勝利。自陣でのボール回収に大きく貢献した。
チームとして機能したからこそ、新生ラ・ロハの特徴である活きの良いウインガーが躍動できた。ヤマルは輝いたが、1人だけが輝くわけではない。彼らはピッチで互いを輝かせ合うチームなのだ。
家族になったラ・ロハ
起用に際してニコ・ウィリアムズとヤマルに1対1で勝負することへの信頼を直接伝えたり、16歳の若者にセットプレーのキッカーを任せる決定を下したり、と自信をもたらすマネジメントを行ってきたルイス・デ・ラ・フエンテ監督の存在も大きなものだ。
「今日は誰を褒めてくれても構わない。彼らは自信に満ちている。スーパースターたちがチームのために尽くしている。我々は大きな目的のために団結しているのだ」
指揮官は試合をそう振り返り、団結の強さを表す言葉として「家族」という言葉を使った。
「我々は大きな家族なんだ」
そうなるために、彼らはこれまでの準備期間を使ってきた。
大家族の末っ子、ヤマルも同じ言葉を使った。
「僕たちは家族なんだ。ダニ(カルバハル、レアル・マドリード)と僕(バルセロナ)が一緒にゴールを祝った様子がそれを示してるよね」
2012年以来の優勝を目指す新生スペイン代表。この大会の決勝戦は7月14日だ。奇遇にも、その前日はヤマルの17歳の誕生日。ベルリンの決勝はラ・ファミリアの盛大な誕生会になるかもしれない。
(関連写真もご覧ください)
前半から積極的な仕掛けを見せたヤマル
切れ込むヤマル
グヴァルディオルを振り切るヤマル
一気にトップスピードに乗り置き去りにした
勢いだけでなく、冷静さも持ち合わせている
もう1人のウインガー、ニコ・ウィリアムズ
彼らが輝く試合を続けることができれば、アンリ・ドロネー杯はスペインのものになる