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「我慢比べを支えた不屈の男。岡村大八が取り戻したもの」

【2025年2月22日 FC東京 0-1 FC町田ゼルビア 調布・味の素スタジアム】

チームに欠かせない存在

勝利を喜ぶ岡村大八(右から2人目)

 昨シーズンまで北海道コンサドーレ札幌でプレーしていた男は、新天地の町田で早くも欠かせない存在になっている。

 6日前のシーズン開幕戦、3人のセンターバックが並ぶ町田の最終ラインには、2人の新戦力が名を連ねた。左には昨年に続きキャプテンを務める昌子源、中央には神戸から加入した菊池流帆、そして右に札幌から加わった岡村大八という新たな3バックは、試合開始から制空権を握り、広島の得意な形を作らせないことに成功した。

 しかし、20分という早い時間に競り合った岡村が膝の打撲により負傷交代。急遽ピッチに入ることになったドレシェヴィッチがきっちりと代役を果たしたことで試合のペースは変わらなかったものの、53分に菊池も負傷交代となってしまうと、セカンドボールの確保ができなくなり、広島が逆転で勝利を持ち帰ることになった。

 シーズン開始早々に3バックのうち2人が負傷という事態になってしまったが、迎えた第2節、岡村はスタメンに名を連ねた。菊池は間に合わず、この日は左から昌子、岡村、ドレシェヴィッチという並びに。岡村の役割は前節から変わり、中央で攻撃を防ぐ役目を担うことになった。もちろん試合に出られる状態にまで回復が間に合ったからではあるが、スタメンに名を連ねたことも、中央を任されたことも、指揮官からの期待と信頼が大きいことの証しだ。

ミッション完遂

マルセロ・ヒアンを抑える岡村

 中央を任された岡村は、まず東京のセンターフォワードを務めるマルセロ・ヒアンとマッチアップすることになった。188cmのブラジル籍アタッカーは、ポストプレーとラインブレイクの両方をこなす手ごわい相手だ。

 試合は互いに中盤でボールを持つことが難しく、後方から跳ね返すプレーが多くなる展開が続き、それに伴って両チームのセンターフォワードとセンターバックの直接的な競り合いも多くなった。マルセロ・ヒアンと岡村、オ・セフンと森重真人というマッチアップは両チームともにネガティブ寄りの拮抗状態であるからこそ多発し、そしてその部分の戦いによって全体の拮抗状態がさらに続くことになっていった。岡村も森重も、相手のセンターフォワードに入るボールに対して見事な対応を続け、攻守が入れ替わってもシュートチャンスまで辿り着かないタイトな時間帯が続くことになった。

 両チームともにセンターフォワードに入るボールが防がれ続けるなか、自然な流れとして攻撃成功の焦点は中盤での打開に移っていった。東京は仲川輝人と俵積田晃太が得意のドリブルからやや強引にでもシュートを狙うが、ここでも岡村が立ち塞がり、シュートコースを潰して決定機を未遂に終わらせた。 マルセロ・ヒアン、仲川、俵積田、途中出場の佐藤恵允・・・岡村は東京の多彩な攻撃陣のそれぞれに対応しながら持ち場を守り抜いた。オールコートマンツーマンの札幌で培われたデュエル力は、昨年のJ1全体で2位の勝利数(※空中戦は含まない)を記録したが、その強みはチームとしての戦い方が変わろうとも変わらなかった。空中戦でも地上戦でも対人能力が高い岡村の守備力は、町田にとって早くも欠かせないものになっている。

支えた町田らしさ

勝利を喜ぶ黒田剛監督

 両チームともに攻め手を欠く展開が続いた試合は、82分に左サイドから中山雄太が入れたボールに西村拓真が飛び込んでついにネットが揺れ、町田のウノゼロ勝利で幕を閉じた。

 黒田剛監督は自分たちの戦い方について「ゼロで進めながら自分たちのペースに持ち込むことが根底にある」と語るが、この試合はその部分で我慢強く粘り続けたことで勝利がやってきた形となった。チーム全体で高い集中力を発揮し続けた結果だが、分水嶺となる勝負をこなし続けた岡村の果たした役割はとてつもなく大きかった。指揮官も試合後、「いるといないとではディフェンスの仕方がかなり変わってくる。素晴らしかった」と背番号50を称賛した。

 昌子、岡村、菊池、ドレシェヴィッチから3人をセンターバックに起用できれば、中山や望月ヘンリー海輝らウイングバックが高い位置を取ることができる。そうなれば、相手の攻撃に対してどっしりと構えることができるだけでなく、攻撃開始時にロングボールを活用して強引に流れを変えようとすることがしやすくなったり、この日のように難しい試合のなかでサイドからのボールで貴重な得点機会が生まれたりもする。ワンチャンスを決め切るかどうか、は個による部分が大きいが、ワンチャンスが生まれるかどうか、はチームとして無失点を続けていればいつか訪れる。

 6日前には指揮官が「後半は自滅気味にやるべきことができなくなった」と語る試合となり、戦い方の基盤が揺らいだところを突かれて逆転負けを喫した。東京戦を終えた岡村は、「(広島戦は)僕のせいで負けたと言っても過言ではないほど。本当にチームに迷惑をかけてしまったので、この試合に懸ける気持ちは大きかった」とコメント。チームとしても個人としても、結果と中身の両方を取り戻さなければならなかった試合で、見事にそれを達成してみせた。そんな町田は、今年も上位に名を連ねることだろう。

(関連写真もご覧ください)

タイムアップの瞬間、充実の表情を見せた岡村大八

カットインしてシュートを狙う俵積田晃太を防ぐ岡村

サイドに流れたマルセロ・ヒアンに対応する岡村

仲川輝人のドリブルに対応する岡村

佐藤恵允の飛び出しに対応する岡村

キャプテンの昌子源と黒田剛監督

喜ぶ黒田監督(左から2人目)ら町田のスタッフ陣