写真をタップすると拡大・スライド可能

「象徴としてのクリスティアーノ・ロナウド」

【2024年6月18日 ポルトガル 2-1 チェコ ライプツィヒ・スタジアム】

前人未到の大記録

試合終了時、フランシスコ・コンセイソンと勝利を喜ぶクリスティアーノ・ロナウド

 クリスティアーノ・ロナウドか、リオネル・メッシか。

 長い間、少なくとも、世界最優秀選手賞であるバロンドールの受賞者を見れば2008年以降、サッカー界は2人のスーパースターが頂点に君臨し続けてきた。2023年まで、バロンドールを獲得した彼ら以外の選手はルカ・モドリッチ(2018年)とカリム・ベンゼマ(2022年)のみだ(※2020年はロベルト・レヴァンドフスキがFIFAのThe Bestを受賞したが、バロンドールは新型コロナウイルスの影響で選出なし)。ロナウドは5度、メッシは8度の受賞を果たしている。

 しかし、2人の時代は終わろうとしている。メッシがアルゼンチン代表でW杯を制し2023年のバロンドーラ―となったものの、2人がキャリアの晩年を過ごしているのは明らかだ。ともに欧州を離れ、ロナウドはサウジアラビアのアル・ナスルで、メッシはアメリカのインテル・マイアミでプレーを続けている。

 とはいえ、2人は依然としてスーパースターだ。代表チームに選出される実力を持ち続けており、当然、国の象徴としての存在であり続けている。

 EURO2024はロナウドにとって6度目のEUROとなった。これは前人未到の大記録だ。自国開催でギリシャに泣かされた2004年からはじまり、2016年にはフランスで悲願の優勝を果たした。

 優勝を果たしたが、ロナウドにはやり残していることがある。決勝で自らポルトガルに優勝をもたらすこと、そしてその瞬間をピッチで迎えること。サン=ドニでの決勝戦で、ロナウドは無念の負傷交代。監督の横でチームに指示を飛ばす姿がその試合のハイライトとなった。

 39歳になったロナウドは、6度目のEUROの初戦で先発出場。最年長記録は41歳のペペが更新しているものの、6度の出場はあまりに驚異的な記録だ。

39歳としてのプレー

インドから観戦に訪れたファンが持っていたボード

 もちろん、プレースタイルは変わった。ドリブラーからフィニッシャーへと変貌を遂げながら世界最高峰であり続けてきたロナウドは、今大会の初戦ではボックス内でのフィニッシャー役に専念する姿を見せた。

 ボールを持つ回数自体が少なく、プレーのファーストチョイスはシュート。メインの動きはクロスをヘディングで合わせるために競り合うことだった。それ以外では、足もとにボールが来れば強引にでもシュートを放ち、逆に、珍しくサイドに流れてボールを受けた時は構えだけで強引に仕掛けることはしなかった。39歳になったFWとしてのプレーがそこにはあった。

 しかし、ゴールは奪えなかった。驚異的なジャンプ力は鳴りを潜め、チェコのCBとの競り合いで上回ってヘディングを決めることはできなかった。足もとから強引に放つシュートはGKに阻まれた。GKと1対1になる決定機も訪れたが、決め切ることができなかった。

 とはいえ、無駄を配し、どこでならば勝てるのかという部分に集中したポジショニング選択をする39歳のトッププレーヤーらしい引き算のプレーは、相手にとって脅威だ。ロナウドがボックス内にいることで、周囲の味方の負担は軽減される。チェコのイワン・ハシェック監督は試合後、「彼があの年齢でこれほど危険な選手でいることが本当に信じられない。彼には脱帽するよ。本当に素晴らしい」とロナウドを評している。

 また、ロナウドの存在はプレー以外の面でもポルトガルを後押ししている。

「インドから7700km以上飛んできたよ」

「こっちは香港から9000マイル」

「俺はコロンビアから来たよ」

 スタンドを見れば、ロナウドを見に世界各国から駆け付けたファンが自身の存在と、いかにロナウドを愛しているかをアピールしている。自国のサポーターたちも負けていない。ロナウドの顔を配したオリジナルの国旗を持っていたり、聖人としてロナウドをデザインしたゲートフラッグを掲げていたり、と多種多様な愛情表現を見ることができる。

 彼らが生みだす熱気、特に、チャンスになろうかというタイミングから一気にボルテージが上がる歓声は、それが既に決定機になっているかのような錯覚をもたらす。

象徴としてのロナウド

後半、客席を煽るロナウド

 象徴が存在するということは、周囲に様々なプラスの効果をもたらす。

 スーパースターであり続けてきたロナウドも、それをわかっている。自分たちの押せ押せムードを高めたいタイミングで観客席を煽るのもその1つだ。ポルトガルの応援というよりはロナウドを見るためにチケットを購入したファンも、それをされれば立派な熱源の1つになる。

 チームメイトに対してもそれは変わらない。逆転ゴールを決めたフランシスコ・コンセイソンがベンチ前で仲間と喜びを爆発させ終わると、ロナウドは自陣に戻る彼を迎えた。試合終了の笛が鳴った時も、ロナウドは最初にコンセイソンと抱き合った。自分がどのように振る舞えば若い選手に自信を与えることができるのかを知った振る舞いだ。もちろん、各国メディアが彼ら2人の抱擁する写真をこぞって使ってこの試合を報じたように、「おいしい」場面を作り出したという側面もある。スーパースターはその行動がどう見られ、どう扱われるかをわかっている。

 各国にとって厄介なのは、フィニッシャーとしてのロナウドは依然として軽視できる存在ではないということと、タイトルに近づけば近づくほど、ロナウドがいるということが第三者にポルトガルを後押しさせる雰囲気を高めるということだ。もちろん、CR7はそのことだってわかっているだろう。

(関連写真もご覧ください)

39歳で6度目のEUROを戦うロナウド

ボールに絡む機会は少なくなったものの、フィニッシャーとしての存在感は大きいままだ

強引なシュートも脅威だ

逆転ゴールを決めたコンセイソンを迎えたロナウド

試合終了後にもコンセイソンと抱き合った

観客に向かってわかりやすく勝利を喜ぶ

象徴の周囲を巻き込む力は計り知れない