【2024年6月15日 スペイン 3-0 クロアチア ベルリン・オリンピアシュタディオン】
独自のキャリアを歩む男
スペイン代表の背番号10、ダニ・オルモは独特なキャリアを歩んでいる。
カタルーニャ出身の彼はエスパニョールのユースに入るとすぐにバルセロナに引き抜かれ、ラ・マシアで育った。トップチームへの昇格も期待されていたが、彼のプロとしてのこれまでの経歴にFCバルセロナの名は記載されていない。それどころか、リーガ・エスパニョーラのクラブはそこに1つもない。
オルモはディナモ・ザグレブからのオファーを選び、クロアチアでプロサッカー選手のキャリアをスタートさせた。経歴についてのインタビューを受ける度に、「16歳でもトップチームで練習させてくれたんだ」とその理由を語っている。
彼がクラブを決める時に重要視しているのはそのクラブが持つプロジェクトだ。若い力の成長を促し、躍進を果たそうとしているクラブに入ることで自らを成長させてきた。クロアチアで注目されるようになった彼が2つ目のクラブにドイツのRBライプツィヒを選んだことも頷ける。
クロアチアとオルモ
ディナモでキャリアをスタートさせたオルモに対し、クロアチアでは帰化によるクロアチア代表入りを期待する声もあった。オルモ自身「サポーターにもソーシャルコミュニティーにも愛してもらえたし、クロアチアという国に溶け込むことができた感覚があった。クロアチアは第二の故郷なんだ」と何度も語っており、クロアチアへの親近感を持ち続けている。
それでも、彼はスペイン代表でプレーすることを選んだ。
「クロアチアの人たちが愛してくれて本当に嬉しい。だけど、スペイン代表でプレーすることは子どもの頃からの夢なんだ」
今回の試合の前日会見で、クロアチアを率いるとズラトコ・ダリッチ監督は「私たちの国で5年間プレーした彼が、今日ここにクロアチア代表の選手としていないのは残念だよ」と語った。 EURO2020のベスト16で対戦した時、オルモは2アシストを記録してクロアチアを破った。しかし、そんなことは関係ない。クロアチアの人々は、今も変わらずザグレブで育ったオルモを愛している。
勝敗を越えた永遠の関係性
59分にペドリと交代でピッチに入ったオルモは、持ち前の万能性で試合の流れに乗り、ボールを運んで中盤と前線を繋いだ。
もっとも、前半で3-0となった試合は既に行方が決していた。クロアチアのダリッチ監督は「逆転するチャンスはほとんどなかったので、彼らを交代することにした」と65分にルカ・モドリッチとマテオ・コバチッチをベンチへ戻し、早くも残り2試合に照準を合わせた。
試合展開的に動きが少ない時間が主になったが、ボールを持てばオルモは前を目指した。限られた時間ではあったが、怪我で苦しんだシーズンからの復調をアピールするには十分だった。
試合が終わると、スペインの10番はクロアチアの選手たちと抱擁を交わした。
2014年の夏に時を同じくしてディナモに加わったヨシップ・シュタロと一際長い時間目を閉じて抱き合うと、クロアチアのサポーターから拍手が送られた。クロアチアへの愛とクロアチアからの愛、両者の美しい関係は、サッカーの勝敗を越えてこれからも永遠に続く。
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ボールを運ぶオルモ
限られた時間ながら第二の故郷との対戦が実現した
なんでもこなせるアタッカーは、先発でなくてもトーナメントに欠かせない存在だ