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「広島が見せた強さと、町田の勢いが止まらない理由」

【2024年4月3日 FC町田ゼルビア 1-2 サンフレッチェ広島 町田・町田GIONスタジアム】

似たもの同士の戦い

激しく競り合う加藤陸次樹と柴戸海

 開幕から好調を続け、無敗を維持している町田と広島。冷たい雨が降る中で行われた春の首位攻防戦は、広島が質の高さを見せつけて勝利した。

 クラブ史上初のJ1を戦っている町田は、昨年J2で見せた戦い方を継続している。後方からじっくりボールを持とうとするJ1クラブに対し、町田は鋭い寄せと両サイドのポケットへのシンプルな攻撃でゴールに近づき、勝利を収めてきた。開幕からの好成績を支えている球際の激しさやロングスローといった特徴は、J1各クラブのサポーターにすっかり認知された。

 しかし、広島はこれまでの相手とはタイプが異なっていた。ボールを保持するところから攻撃が始まるのではなく、鋭い寄せで切り替えを発生させ、そこから効率よくゴールに迫る。守備が攻撃に直結する戦いぶりで好成績を収めている、という点で、町田と似ている。

 そんな相手に対し、町田は「球際や切り替えといった、相手が得意としている面で真っ向勝負を挑んだ」(試合後の黒田剛監督のコメント)。  そして、広島が町田を上回った。広島は競り合いと少ないタッチ数でのパスワークで町田の寄せをかいくぐり、似た者同士の真っ向勝負を制した。

練度の高さを示したサンフレッチェ広島

中央でボールをキープする東俊希

 東俊希のキープをはじめとした中盤でボールを動かす時のテクニカルなはがしだけでなく、個の質の高さを生かすための練度の高いポジショニングが勝敗を分けた。

 たとえば、加藤陸次樹が体を張ってボールを収めた時には、大橋祐紀や松本泰志ら周囲の選手が町田側の2人目の寄せを阻むように危険なスペースへ走り、ボールホルダーと相手が1対1の状況であることを保った。あるいは、セカンドボールの回収に成功した時には加藤や満田誠が即座にギャップを突いた。ケアするのか勝負に行くのか、町田は行く行かないの判断が難しくなり、広島の前進に対して後手を踏むようになった。

「相手が止まってボールウオッチャーになっていたので、プレーの判断を変えて良い形でパスを出せた」  自身がボールを前進させて生んだ1点目の場面を、満田はそう振り返っている。

「勉強になった」町田ゼルビア

度々高い位置に顔を出した佐々木翔

 2点目はセンターバックの佐々木翔が前線を突いてPKを獲得。また、選手交代は15分に荒木隼人がアクシデントで交代を余儀なくされた以外では、87分に行われた1人のみだった。強度の高さと縦への勢いでこれまでの相手を苦しめていた町田を相手に、この日の広島がどれだけ上回っていたのかということがわかる。

「技術的にも戦術的にも我々が主導権を握っていたと思う」

 広島を率いるミヒャエル・スキッベ監督がそう言えば、町田の黒田監督は「明らかに広島さんが上手(うわて)だった」と試合を振り返った。

 

 もっとも、町田の勢いがこれで止まることはないだろう。敗れたものの、2点ビハインドになった町田は代名詞の1つになっているロングスローで1点を返してみせた。

 部分的ではなく、ピッチのあらゆる場所で広島ほどの高い練度を示すことができるチームは片手で足りるほどしかない。だから広島は王者・神戸と並ぶ優勝候補であり、たとえこの試合が町田の攻略方法を知らしめるものであろうとも、それを実行できるチームは多くない。町田にはこの初黒星を機に、更なる質の向上と隙のなさがもたらされることになるだろう。

「今日の試合は教訓。とても勉強になった」  黒田監督のその言葉に、自信の揺らぎは一切なかった。

(関連写真もご覧ください)

スペースへボールを前進させる満田誠

仙頭啓矢と満田誠の競り合い

仕掛ける加藤陸次樹

フィードを送る荒木隼人

プレスをいなして進む川村拓夢

ロングボールの処理を冷静にこなした大迫敬介

広島を作り上げているミヒャエル・スキッベ監督